「現地育成選手」

今年に入り政界をも巻き込んで議論されてきたUEFAの「現地育成選手」に関する提案が、エストニアで開催されていたUEFAの総会で加盟52協会によって承認されました。UEFAの声明を読んでみると、「チーム間のバランス均衡」とともに「スポーツとフットボールの果たす役割」について多大な関心を払っているようです。(UEFA.com)

以下、抜粋です。

若手選手の育成に取り組むことによって欧州各国から才能ある選手を生み出すこと、そしてそれによって代表チームと代表戦の質を向上させることが、サッカー界の発展にとって極めて重要。

承認宣言には次のように述べられている。「若手選手の育成は、サッカーの将来にとって極めて重要である。すべてのサッカー協会に所属するすべてのクラブが、それに貢献すべきだ」

「サッカークラブには、地盤とするコミュニティー、地域、国における、社会的及び教育的な役割がある。それ故、地元タレントを育成することによるメリットは、サッカーというスポーツの枠にとどまらない。社会全体にとっても有益となる」

UEFAは、資金力が、今日のサッカー界において大きな役割を果たしていることを認識している。しかしサッカーは、単に資金力を競うものであってはならない。

この規定は今後、UEFAクラブ大会に適用されることになる。また、UEFAは、加盟各協会に対し、同様の規定を国内大会にも適用することを検討するよう求めている。

今回の規定案では、UEFAクラブ大会出場チームから提出される“A”リストへの登録選手数が、引き続き25人までに制限される。そして2006-07シーズンからは、そのクラブが保有するユースアカデミーで育成した選手、及びそのクラブと同じサッカー協会に属する他のクラブが育成した選手を、それぞれ2名以上登録することが義務付けられる。

さらにその次の2シーズンでは、“A”リストにおけるクラブ育成選手枠と協会域内育成選手枠が、毎年一つずつ増やされる。これにより、2008-09シーズンには、各クラブ25人の登録メンバーのうち、4名がクラブ育成選手、さらに4名が協会域内育成選手ということになる。

生え抜き選手を十分に育成しないまま、他クラブからの選手獲得という安易な方法に頼るクラブがあることに、UEFAは懸念を示している。今回承認された規定の目的は、選手の“買い集め”にブレーキをかけ、地元で育った選手がレギュラーとして活躍するチャンスを拡大させるようなシステムを構築することによって、各国内リーグにおける戦力バランスを改善することにある。そしてこれは、代表チームの候補選手層拡大にもつながることになる。

より少ないマネーでいい選手をとろうとすることは、チーム経営者としては当然のことです。しかし下部組織出身選手が最終的に8人、登録選手数の約3分の1となると、移籍マーケットのみならず、フットボール界にかなり影響を与えそうです。ざっと思いつくだけでも以下のことがありました。
  • CLやUEFAカップに参加するためには、毎年1−2人はユースからトップチームに昇格させる必要がある
  • 中位チームであってもUEFAカップへの参加を視野に入れると、おいそれとユース育ちの選手を移籍させにくくなるため、上位クラブによる有望選手の引き抜きは今より困難になる
  • 仮に各協会がUEFAの意向通りに同様の規定を国内に適応すれば、ますますその傾向は強まる
  • 外部から獲得できる選手数が限定されることになり、移籍マーケットは縮小し、主要な選手の供給源である南米・アフリカに多大な影響が及ぶ?
  • 豊富な戦力によるターンオーバー制が難しくなる
  • しばらくの間はゲームの質が低下するかもしれないが、均衡した戦力の下で戦術・戦略に秀でた監督が出てくるかもしれない
  • 欧州の移籍マーケットでは、新しくEUに加盟したポーランド等の東欧諸国が注目を浴びようとしているが、そういう動きにも一定の歯止めがかかる
  • ビッグクラブは、ユース組織を利用した外国の若い選手の囲い込みに走る?
  • 若手育成に定評のあるアヤックスなどは復権できるのか?
  • かなり長期的になるが、各国独自のフットボールスタイルが再び強まる?
ボスマン判決以降、自国以外の選手の果たす役割は大きく変化しました。以前は、チームに足りない点を補完する、アクセントをつけるというような意味合いが強かった。それが今では、外国人選手だけで構成されるチームがあったり、何年間もユースからトップへ昇格がないチームさえあります。

ただ現状は、CL至上主義というかその影響が強するきらいがあると考えています。ビッグクラブであってもCLに出場できないと収入は激減し、選手は買い叩かれ、あっという間にころがり落ちてしまいます。トップチームはそのことに怯え、毎年巨額のマネーを湯水のようにつぎ込まざるを得ないのも事実です。このあたりの構図を少し考え直さないと、いずれなんらかの歪みが生じそうな気がしています。

超一流選手が集まって展開されるフットボールは、間違いなくWCをはるかに凌いでおり見ていて楽しい。でも現状は、財力を競う側面が少し強くなりすぎたのでしょう。UEFAの声明の通り、フットボールはスポーツであって財力を競うものではありません。マネーのインパクトが、徐々に縮小されていくソフトランディングを期待しています。

<参考エントリ>
2005.02.17 「下部組織出身(現地育成)選手」問題のその後
2005.02.05 下部組織出身選手 "locally trained players"
2005.02.03 チーム生え抜きの選手
2005.01.31 "Why the Premiership needs a salary cap"