ナビスコ・ファイナルのレポ

余裕でかわすオシムたん世界の最前線は、個の力を前面に押し出したフットボール。これに対して千葉は、「走る」という一言で表現されてはいるが、対称的に集団戦術のフットボールを展開するチームだ。

その内容もリアクション・フットボールが増えるJの中で、強者のスタイルというか本格的なフットボールというか、そういうものを目指している。選手一人一人の力は平均的なものだけど、十分に魅力的なフットボールだ。

そして、年間予算14億円、J1で最低の千葉が、タイトルを取ったことは意義深いと思う。生え抜きの選手を中心に使って育てあげたことは、Jの下位でくすぶっているクラブやこれからJを目指すクラブに大きな勇気を与えたと思うから。

ナビスコ・ファイナルは、期待していたスペクタルなゲームではなかったけれど、とても内容が濃い、しぶ〜〜いゲームを見ることが出来て幸せ。

  • 千葉のマークは、基本的には結城がアラウジーニョ、斉藤が大黒にマッチアップし、ストヤノフが1枚あまる形。しかし前半は、阿部の役割がはっきりしていなかったように思えた。
  • G大阪は、DFラインをハーフウェイラインから15mほどの地点まで上げている。千葉の最終ラインの位置は20mほどだから、30−35mの狭い範囲内での攻防が続く。こういう戦いはコレクティブな千葉に分がある戦いになるのかなと思っていたら、意外にも引き出しの数が少なかったという印象。
  • その大きな要因は、G大阪が巻をがっちり押さえ込み、次に徹底的にサイドをケアして攻撃の基点を作らせなかったことだと感じた。千葉が堅くなっていつもの動きが出来なかったというよりは、G大阪が前線からプレスをかけて、うまく千葉の走るスペースを限定しているように映った。
  • 千葉は、3バックの相手に対して1トップで中盤を厚くする。中盤の選手が両サイドに攻めあがったり、サイドに開いて3トップの形を作り中盤のスペースを広げたり、いろんな形で崩そうとしていたが、この日はG大阪の守備の出来がよすぎた。ボールの出所に早いプレッシャーをかけられて、千葉らしいダイナミズムが発揮できない。
  • 巻の1トップは、シジクレイに面白いようにやらてしまっていた。裏へ抜けるスピードで勝負するタイプではないので、ハース欠場の痛手をかなり感じた。
  • いやぁG大阪は、まじでどこかの青いチームかと思ったくらい、まずは守備から入ってきたという印象。ただ攻撃する積極性という点では、千葉が上回っていたように感じた。
  • しかしG大阪は中盤のプレスでボールを奪ってのショートカウンターで何度か決定機を作り、徐々にペースはG大阪へ傾いていく。千葉のつなぎのミスといえばそうなんだけど、おそらくこの日のG大阪はそういう形からの攻めを強く意識し狙っていたのだろう。
  • 前半は、両チームとも相手を崩しての決定機がなくこう着状態のまま終了するが、ゲームのレベル自体はかなり高いものだと感じた。
  • 千葉もG大阪の強力攻撃陣を0点に抑えたという点ではプラン通りなのだろうが、ゲームを支配していたとはとても言える内容ではなかった。どうしてもG大阪の積極的な守備からの攻撃に目がいってしまうので、流れはG大阪にあったと映ってしまう。ただ守備を強く意識していた分だけ、G大阪の攻撃も迫力を欠いていたと思う。
  • 後半になっても流れはG大阪。前半から効果的だった形、前線3人が左サイドに寄って右サイドに展開という形がいくどとなく脅威を与える。千葉は阿部がフェルナンジーニョにきっちりマークにつくようになっていたこともあり、G大阪の前線の動きにつられて逆サイドに前半以上に大きなスペースを与えていた。
  • 千葉の左サイドは坂本が中央に絞りつつケアしていたが、いかんせんG大阪の松下、橋本が活用できるスペースが大きすぎた。このあたりを契機にして局面がぐっとほぐれ始める。
  • 千葉の左サイドで優位に立ったG大阪だが、いつものように一気にペースを握ってしまえず一進一退を繰り返す。60分前後から千葉も形になりはじめると、しばらくは千葉の時間帯が訪れる。やはり決勝戦なのか、G大阪はいつもより守備に重点を置いているようだ。
  • それにしても千葉の最終ラインと阿部は見事だった。結果的には倍以上のシュートを打たれているのだけど、上から見ていてやられるなという感じはほとんどしなかった。しつこいマンマークも見事だったがストヤノフがかなり効いていて、アラウージョフェルナンジーニョのラインを分断できたことが大きかった。ブラジル人の二人、最後の方は嫌気がさしているようにさえ見えてしまった。
  • その中で大黒が常に駆け引きをする動きをして、ボールを引き出していたのは好感。シュートも一番打ったのだけど、肝心のシュートの場面で慌てているように見える。最近ゴールできていない焦りのようなものを感じていなければよいのだけれど。
  • 振り返ってみれば、ゲームの綾は選手交代にあったのかなと。怪我の羽生の交代は、いけるところまでいこうとしたのだろう。ポペスクも予想通りだった。しかし常に先手、先手とフレッシュな選手を入れて、自分たちのフットボールを崩さずにいた千葉のほうが効果的だったのではなかったかなと。
  • そしてさすがに試合も終盤になると、あちこちにスペースに出来始め、局面がかなりほぐれてきた。巻と林の2トップになってからは、DFライン背後のスペースを狙う機会が増え、佐藤勇の効果的な攻め上がりも見られるようになってくる。こうなると楔のパスも入る機会も増え、千葉にゴールの期待のようなものが生まれ始める。
  • 延長に入ってからは、終始千葉がペースを握っていた。最後の最後になって千葉の走力が生きてきたというか、後半の選手交代で盛り返して、G大阪にプレッシャーを与え始めたことがここにきて効いてきたのだと感じた。
  • 宮本については想像以上に回復していた。千葉が2トップになっていたので、彼のカバーリング能力が生きる局面で力を発揮していた。このゲームはそんな展開ではなかったが、彼にはストヤノフのような攻撃力を期待してしまうんだよな。
  • 期待していた若手では、水野だけが試合に出た。ハーフタイムの練習時、もうほんとにだめだめクロスしかあげれなくてまともな練習が出来ず、なんじゃこれ?なんて思ってたのに試合に出たら凄かった。PK蹴る前に空を仰いで緊張しているなって感じたけど、よかった、よかった。